PROJECT STORY01.

次世代タイヤ技術開発
“ SMART TYRE CONCEPT ”

住友ゴムがつくりたい
タイヤの未来

未来はいつも、
若い力でつくられる。

電気自動車や自動運転のクルマが広く一般に普及する未来のモビリティ社会。資源循環型社会への転換が進み、よりクリーンで安全なクルマが求められる時代にむけて、さらに高い安全性能と環境性能を実現するタイヤ開発を目指すのが
「SMART TYRE CONCEPT(STC)」だ。プロジェクトには社内のさまざまな部署、多くのスタッフがかかわり、互いに連携しながら次世代技術の開発や市場開拓に挑んでいる。そこでは若い社員の姿も、多く目にする。STCは、若手が中核メンバーとして大きな役割を担う未来プロジェクトでもある。

材料開発いまだ見ぬ材料を求めて、
未知の領域に手を伸ばす。

「SMART TYRE CONCEPT」の実現には、過去の常識を覆す優れた特性を備えた新規の材料を獲得する必要がある。材料企画部では、高分子材料設計技術、解析評価技術など幅広い領域の知見を総動員し、STCの基盤技術ともいえる新材料の開発に挑戦中だ。『私が担当している研究テーマは2つあって、ひとつは路面の状況や気温によって特性が変わり、安全性を向上させる「アクティブトレッド」用の材料の開発。例えば濡れた路面で水に反応して滑りにくくなるなど、温度や水の環境因子によって特性が変化し、事故のリスクを低減する新しいゴム材料の開発を目指しています。2つ目は、摩耗や劣化による性能低下がほとんどない「性能維持技術」を搭載したタイヤ向けの材料開発。既成概念にとらわれない新たな視点からのアプローチで、例えばゴムの破壊現象を修復したり、低下した性能を回復したりする技術の実用化を目指しています』(O.S.)。

材料開発 いまだ見ぬ材料を求めて、未知の領域に手を伸ばす。材料開発 いまだ見ぬ材料を求めて、未知の領域に手を伸ばす。

2つのテーマは、いずれも従来技術の延長線では実現が困難。開発では、新たな着眼点を見つけ、コンセプトを固めるところから出発し、材料のスクリーニング、分子設計、特性評価へと地道な作業を積み重ねる以外に方法はない。『それでもここ1年ほどの間に、手がかりらしきものを見つけることができました。糸口さえ見つかれば、ゴールまでは一直線。開発は、一歩ずつ着実に前へ進んでいます』(O.S.)。かつて商品開発の仕事に携わっていた頃はプロジェクトを外から眺め、商品開発の現場ではあり得ない未知の領域への挑戦に感嘆するばかりだった。今は自らが、その挑戦の最前線に立っている。『ゴムの材料開発は、私の大好きな料理と似ていて、頭の中で想像を膨らませ、アイデアを凝らすことで無限に新しいものを創りだせるのがいちばんの醍醐味。これからも前のめりに開発に取り組み、一日も早く結果を出すことでユーザーの安全安心に貢献したいと思っています』(O.S.)。

システム開発ユーザーの声を聴き、
未来のクルマセンシングを考える。

タイヤは、路面と接する唯一のパーツ。タイヤを通じてさまざまな情報を集めることで、安全性能や環境性能を高めることが可能になる。そんなアイデアから生まれたのが「SENSING CORE」。クルマに装備される各種のセンサから情報を得てタイヤの車輪速を解析し、路面の滑りやすさやタイヤにかかる荷重などの情報を検知するセンシング技術だ。『そのセンシングコアの技術開発と、自動車メーカーへの提案活動や展示会での一般ユーザーからのヒアリングが私の仕事です。センシングコアは、パンクなどによる空気漏れを運転者に警告する「DWS(タイヤ空気圧低下警報装置)」がベース。すでに商品化されているその技術を進化発展させ、2017年に正式なプレスリリースが行なわれました。現在はビジネスとして本格展開するために、技術の改良を進めながら自ら評価を実施したり自動車メーカーへの提案を行い、実用化に向けた性能確認を行なっています』(M.Y.)。

システム開発 ユーザーの声を聴き、未来のクルマセンシングを考える。システム開発 ユーザーの声を聴き、未来のクルマセンシングを考える。

技術開発の現場は、会社の中だけにとどまらない。毎年冬には北海道の一般道で実車を使ってデータ収集。最近ではセンシングコアの新たな用途を見つけるために、デモ機を搭載したクルマで北海道の雪道を走り回り、幹線道路をはじめとするさまざまな道で路面状況を記録した。『センシングコアは、アイデア次第でさまざまな応用が可能です。その一例として、北海道の道路の路面状況をつかみ、カーナビとリンクして滑りやすい道の迂回ルートをモニター画面に表示することもできます』(M.Y.)。技術開発と提案活動の一人二役。でも実はそこに、技術開発の仕事の喜びが詰まっています。『社会に受け入れられる“良いもの”とは、多くの人から認められるもの。だから自動車メーカーの技術者や一般ユーザーの声や意見を聞くのは楽しみな時間だし、センシングコアの技術開発で重要なステップだと思っています。世界中のクルマに搭載され、未来の自動運転を支えるような技術を一日も早く実現させたいと思っています』(M.Y.)。

企画マーケットをつくる、ビジネスをつくる。

「SMART TYRE CONCEPT」のプロジェクトに関わるのは、技術者だけではない。多くの事務系社員もプロジェクトに参加。市場調査や対外的な情報発信、ビジネスモデルの検討など、事業化する上でなくてはならない役割を担っている。『プロジェクト全体をリードする経営企画部の一員として、空気を入れる必要がなく、パンクや空気圧管理の心配がない「エアレスタイヤ」の開発に携わっています。エアレスタイヤはまだ試作段階で、「どれほどの市場規模になるか」「どんなクルマに適しているか」「社会にどんな影響を与えるか」など、見えない部分も数多くあります。そんな中、最新技術を紹介するセミナーや展示会に足を運んで情報収集し、市場予測を立てたり、自動車メーカーにヒアリングして開発方針を決めたり、ビジネスとして軌道に乗せる道筋を考えるのが私の仕事です』(M.T.)。

企画 マーケットをつくる、ビジネスをつくる。企画 マーケットをつくる、ビジネスをつくる。

仕事は情報収集だけではない。エアレスタイヤの認知を広げるための情報発信も、企画担当の重要なテーマだ。『エアレスタイヤの試作品を参考出展した「東京モーターショー2019」では、プロモーションビデオの作成や展示内容の企画に深く関わりました。営業担当として説明員を務めた前回と違い、来場者にいかに印象付けるかを考える仕事。ビッグイベントに異なる立場で2度も関われたのは貴重な経験でした』(M.T.)。交流会やイベント視察で、各地を飛び回る日々。出先でアイデアを思い付くとメモをとり、記録に残す習慣は営業時代から変わってない。『好奇心旺盛で、誰も考えないことをするのが好きな性分。だから世の中にない商品の未来を思い描き、市場を1からつくり上げていく今の仕事は面白くてたまらない。多くの人を巻き込みながら新たな試みに挑戦し、エアレスタイヤを広く社会から受け入れられる商品に育てたいと思っています』(M.T.)。

材料開発発想の転換が、壁を破るカギだった。

住友ゴムが、エアレスタイヤを最初に発表したのは2015年の東京モーターショー。その後も研究は続き、性能を向上させた試作モデルが誕生した。先輩たちがつないだその開発のバトンを、2019年から受け継いでいるのは、化学材料に関する知見を買われ、化学系メーカーから転職した入社1年目の技術者。住友ゴムは、多様な人材に門戸を開く会社だ。『エアレスタイヤは、衝撃を吸収する「樹脂パーツ」と路面をグリップする「トレッドリング」が金属のホイールを取り囲む構造。実用化に向けて耐久性をさらに高めるには、これらの部材を強固につなぎあわせる必要があります。でも金属と樹脂、樹脂とゴムという異種材料を接合するには多くの課題がつきまといます。その課題をクリアし、エアレスタイヤの耐久性向上を実現することが、私に与えられた役目でした』(T.A.)。

材料開発 発想の転換が、壁を破るカギだった。材料開発 発想の転換が、壁を破るカギだった。

技術開発は、一朝一夕には進まない。数えきれない種類の接着剤を試したものの、なかなか思うような結果が得られず、大きな壁に行く手を遮られた時もあった。『そこで思いきって発想を転換し、接着剤そのものだけではなく、ゴムの素材配合にまで踏み込んで接着しやすくなるように配合を改良しました』(T.A.)。結果は上々。新たな改良でさらに進化を遂げたエアレスタイヤは、STCの最新の技術成果として「東京モーターショー2019」に参考出展された。『展示ブースでは、エアレスタイヤがなんなく段差やカーブを走るシーンを収めたプロモーションビデオも映し出されました。撮影に立ち会った私にとっては、ご覧になった方がとても驚かれている様子が特に印象的でした。タイヤは人の命を乗せて走るもの。誰もが安心して乗れるエアレスタイヤを開発することが、私も含めてプロジェクトに関わる技術者全員の想いです』(T.A.)。

タイヤにおいて、より高い安全性能と環境性能の実現を目指す「SMART TYRE CONCEPT」。その向かう先にあるのは、安全な自動運転のクルマが自由自在に行き交う社会、交通事故のない社会。そんな未来を創るのは、今を生きる若い力。若手主導で数々のイノベーションを生み出した住友ゴムが、再び真価を発揮する時がめぐってきた。