大阪市立大学大学院修了。博士(経営学)
大阪市立大学、神戸大学助教授を経て、2001年より同教授。2014年から2016年、および2021年から現在まで神戸大学大学院経営学研究科長・経営学部長。2019年より2021年まで神戸大学副学長、2020年より神戸大学バリュースクール長を併任。近著に『アカウンタビリティから経営倫理へ』(有斐閣)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版社)、『価値創造の教育』(神戸大学出版会)、『責任という倫理』(ミネルヴァ書房)などがある。
住友ゴムは2025年から2035年までの長期経営戦略を発表しました。不確実性が高まり、将来が見通しにくい状況下での長期戦略では、同社が示しているように「変化に強い経営基盤構築」が不可欠です。そして、基盤強化の手段として、人的資本経営とサステナビリティ経営を位置付けていることは、人材と社会を基礎に経営の基盤を作るという同社の姿勢を示しており、高く評価できます。今後は、人的資本経営とサステナビリティ経営を連動させて着実に展開していく必要があります。そのためには「社会価値」と「顧客価値」の両立を超えて、「社会価値」を「顧客価値」として提供したり、「顧客価値」を「社会価値」に進化させる道筋を示していくべきと考えます。それが「未来をひらくイノベーション」であると思いますので、今後の活動を期待しています。
今年度の報告書の特徴の一つは、社長、社外取締役、担当役員、経営幹部、現場責任者という多様な階層の社内メンバーが、単独もしくは対談形式でメッセージを発信していることです。特に、対談形式の記事では、社内の課題やリスクについて真摯な議論が展開され、改善の方向を目指す強い姿勢が見られ、会社の方針が隅々にまで浸透していることがよくわかります。今後は、顧客、投資家、学生、地域住民など、多様なステークホルダーの声を取り入れられると、より客観的に全体像が理解できるようになると思います。また今回は、機関投資家にフォーカスした情報の掲載を優先したということなので、機関投資家とのエンゲージメントについてはより詳細な情報開示も検討する価値があると思います。
統合報告フレームワークは、IFRS財団傘下の国際会計基準審議会(IASB)と国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に統合され、今後はサステナビリティ情報開示全体の中で位置付けられるべき報告書になると予想されます。そのためには、ISSBのS1基準とS2基準が規定するサステナビリティ情報を、統合報告フレームワークの価値創造のコンセプトと結びつけることが肝要です。サステナビリティ情報開示はともすれば形式的に流れやすい傾向がありますが、統合報告におけるマテリアリティの基準をしっかり応用して、長期的な視点から実質的なサステナビリティ活動を促進するような報告書に進化させていくことを希望します。
國部先生には、いつも的確なご意見・ご助言をいただき御礼申し上げます。
2024年には当社グループを取り巻く事業環境の変化、長期経営戦略を策定する前提条件となる当社グループのマテリアリティを更新しました。國部先生にいただいたご意見を参考に、当社の企業理念である「住友事業精神」を基盤に経営層との対話を重ね、「ありたい姿」「当社の意志」を公表しました。
2025年1月には、外部ステークホルダーと経営層とが対話する「サステナビリティ・アドバイザリーボード」を設置し、ステークホルダーとの連携も進めているところです。
2025年3月に公表した長期経営戦略では、当社が10年後に目指す姿を「ゴムから生み出す“新たな体験価値”をすべての人に提供し続ける」としています。その実現に向け、人的資本経営とサステナビリティ経営を連動させつつ着実に推進することが、変化に強い経営基盤の構築につながると考えています。
人的資本経営では、未来を切り拓く人材の育成につながる施策や、従業員が心身共に健康な状態で、やりがいをもって自分らしく活躍できる土壌の整備を進めていきます。新たな価値創造を生み出す基盤づくりの取り組みの一つとして、「はたらきたい未来の工場プロジェクト」を従業員鼎談で取り上げました。
昨年に引き続き、社長をはじめとする経営層、社外取締役に加え従業員のメッセージも読者にわかりやすく届けることを目指しました。他の公表資料ではお伝えできなかった長期経営戦略を通じた価値創造への思いや取り組みの実態を、統合報告書から読み取っていただけますと幸いです。また、社外取締役鼎談では当社グループのガバナンス最前線をお伝えしています。
國部先生からのご意見にありますように、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションについての情報開示は、今後の課題と認識しております。なかでも、株主・投資家の皆様との建設的な対話を通じて、中長期的な価値創造に挑み続けるとともに、情報開示も進めてまいります。サステナビリティ情報開示を形式的なものに留めないよう、マテリアリティに基づいた長期的視点から、事業を通じた社会課題の解決に向けて価値創造につながる活動を推進してまいります。
日野 仁