トップコミットメント

写真:代表取締役社長 山本悟 写真:代表取締役社長 山本悟

住友ゴム、新時代への出発。
構造改革と成長戦略の両輪

住友ゴム工業株式会社
代表取締役社長
代表取締役社長 山本悟代表取締役社長 山本悟

2025年1月早々、私はラスベガスにいました。目的は二つ。一つは世界最大級のテクノロジー展「CES※12025」で当社の「センシングコア」をグローバルに発信すること、もう一つは、米国グッドイヤー社と欧州・北米・オセアニア地域における四輪タイヤに関する「ダンロップ」商標権取得契約を締結することでした。
当社は、その時々の的確な経営判断を礎とし、グローバルに事業展開する会社へと成長を遂げてきましたが、欧米のダンロップ商標権には紆余曲折があり、直近20年以上は欧米で使用できない状況でした。それが、阪神・淡路大震災から30年という節目の年に、再び買い戻すことができるという高揚感に包まれ、米国での契約調印に臨みました。
振り返りますと、私が入社した2年後の1984年から、当社は欧米ダンロップ社買収を契機とし欧米市場に参入しました。当時、私はマーケティングの部署で、グローバルフラッグシップタイヤをつくるプロジェクトに参画していました。その際、欧米市場におけるDUNLOPブランドの強さやお客様からの信頼の高さを実感するとともに、それを大変誇らしく感じたことを記憶しています。
その後、世界的な景気の先行き不安や競争激化、加えて阪神・淡路大震災による被災もあり、1999年グッドイヤー社とのアライアンスを通じて、欧米は同社に任せ、当社はアジアや南米・南アフリカなど新興国中心にリソースを集中することで事業拡大することができました。
そして、2015年アライアンス解消により、欧米のダンロップ商標権は同社が保有することとなりましたが、当社が事業展開する地域は大幅に拡大し、経営の自由度が向上しました。
そうした経緯もあり、この度DUNLOPブランドを買い戻しグローバルに展開できるようになったことを心から嬉しく思っています。
先日、欧米市場における古くからの販売店の方々からは「よく帰ってきたね。期待しているよ」と温かい声援をいただきました。また、全従業員が、DUNLOPブランドを当社の長期的な成長戦略の柱とし、世界中で認知され愛されるブランドにしていくと意気込んでいるところです。
10年後に振り返ったとき、「2025年こそが当社の新たな出発点だった」と感じる、極めて重要な一年になると考えています。

※1 Consumer Electronics Show。ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー展示会。

中期計画の進捗
コミットメントは必ずやり遂げる覚悟

まずは中期計画の進捗からお伝えします。2022年度業績が過去最低水準まで落ち込んだ中、ステークホルダーの皆様にお約束したことを確実にやり遂げていく覚悟で2023年に新たな中期計画をスタートさせました。
この中期計画で掲げた施策の一つは既存事業の選択と集中です。対象とした約10の事業・商材について構造改革を成し遂げるため、2024年には6つの事業・商材の目途付けを行いました。この中には最重要課題であった米国タイヤ工場生産終了と解散を含んでいます。構造改革を進める過程では取締役会などで侃々諤々の議論があり、苦渋の決断を伴いましたが、皆様にお約束した計画を必ずやり切るという覚悟のもと、他の対象事業についても着実に前進させています。
2020年以来、経営基盤強化活動「Be the Change」プロジェクト※2に取り組み、部門を越えた連携により組織体質の改善、利益基盤の強化、そしてキャッシュフローの向上を実現してきた実績も構造改革を推進する原動力となりました。
もう一つの施策が成長事業の基盤づくりです。「アクティブトレッド」や「センシングコア」などの有望な要素技術の開発が相次いでいます。特に「アクティブトレッド」は、2024年にこの技術を搭載した次世代オールシーズンタイヤ「SYNCHRO WEATHER(シンクロウェザー)」の発売にこぎ着け、ヒット商品となっています。長年、タイヤ営業に携わってきた私にとって、発売前に多くの予約をいただくという状況は初めての経験でした。また「センシングコア」についても、自動車メーカーへの納入や北米でのビジネス化が着々と進んでいます。冒頭でお話しした「CES2025」でも、当社展示ブースに多くの方が来場され、期待が膨らみました。
スポーツ事業では、XXIO(ゼクシオ)クラブの好調な販売や、独自技術搭載のSRIXON(スリクソン)クラブ新発売に加え、当社契約選手の活躍も相まって、ゴルフのグローバルトップ3を目指す上で着実な前進を遂げることができました。
産業品事業では、独自開発の高減衰ゴムを使用した制振ダンパーが、引き続き高い評価をいただいています。令和6年能登半島地震の際、当社商品を設置した全517棟の全壊・半壊被害はゼロでした。また、2025年1月、当社の制振ダンパーがテレビ番組で取り上げられ、多くのお客様から反響をいただきました。当社は本社・神戸工場が阪神・淡路大震災で、白河工場が東日本大震災で被災しています。そうした経験を持つ当社だからこそ、地震から命を守り、社会に貢献できる制振ダンパーの普及に今後も注力してまいります。
そして重要課題は、足元の業績回復です。業績に関しては、良いときも悪いときもステークホルダーの皆様にしっかりと情報を開示するとともに、約束は必ずやり遂げるという覚悟のもと、全社を挙げて注力してきました。その結果、2024年12月期の事業利益は過去最高の879億円(前年同期比13.2%増加)となりました。
一方、事業利益率などの経営指標は、同業他社より低い水準であると認識しています。中期計画、長期経営戦略に織り込んだ施策を強力に推進し、各種経営指標の向上にも取り組みます。そのために、特に「構造改革」「業績向上」「成長戦略」に注力していきます。「構造改革」では、残る対象事業の目途付け、「業績向上」では公表値の超過達成、そして「成長戦略」では、長期経営戦略に基づく長期的視野での施策を推進します。グループ内での連携とスピード感のある活動を、私自身が先頭に立ってリードしていきます。

※2 2020年にスタートした社長直轄の変革プロジェクト「Be The Change」プロジェクト。組織体質の改善と利益基盤の強化を図ることが目的。

Our Philosophyの浸透
Purpose「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」の実現

当社の企業理念体系「Our Philosophy」は2020年の策定以来、国内外のグループ会社で浸透を図り、住友の事業精神と共に従業員の行動指針となっています。そのPurposeである「未来をひらくイノベーションで最高の安心とヨロコビをつくる。」を実現することが私の使命です。その考えを中期計画や長期経営戦略に反映しています。
浸透活動の一環として国内外の拠点を訪問し、従業員と直接対話する「語る場」活動を行っています。海外グループ会社のナショナルトップメンバーと対話した際、「お客様からの信頼とイノベーションが住友ゴムらしさであり強みである」との声を聞き、「信用と確実」の精神が根付いていることを感じ、心強く思いました。今後も活動を継続し、理念の浸透と従業員エンゲージメント向上を目指します。
私はかねてより、「Our Philosophy」の具現化のため長期的な視点で戦略を策定し、事業運営をしていくべきと考えてきました。構造改革を含む中期計画の完了後、当社が将来目指す姿を明確にし、ステークホルダーの皆様にお示しするため、この度の長期経営戦略策定に着手しました。

長期経営戦略の策定
「強い想いと果敢な挑戦」をキーワードに掲げた長期経営戦略

長期経営戦略は、1年以上をかけ全社的な議論を経て策定しました。その間、従業員の思いをしっかり受け止めることが大切と考え、国内外の拠点を可能な限り訪問しました。現場の声に耳を傾け、厳しい意見も真摯に受け止めながら、当社の進路を明確に示す必要性を強く感じました。
住友ゴムをどんな会社にしていきたいのかを真剣に考え、役員・従業員の意見を集約し、取締役会で徹底的に議論を重ねて、長期経営戦略をまとめ上げました。「強い想いと果敢な挑戦」をキーワードに掲げたこの戦略は、私たちの未来への覚悟とステークホルダーの皆様へのコミットメントです。経営目標の達成とあるべき姿の実現に全力を尽くしてまいります。

長期経営戦略において、当社は「ゴム・解析技術力」と「ブランド創造力」の2つを強みと位置付けています。ブランドの価値、ひいては企業価値を向上させるためには、付加価値を生む独自技術を備えた製品やサービスが重要です。この2つの強みを活かし、モビリティ、スポーツ、医療、暮らしなどのさまざまな領域で、お客様に「最高の安心とヨロコビ」を提供していきます。そして、当社が目指す姿を「ゴムから生み出す“新たな体験価値”をすべての人に提供し続ける」と定め、持続的な成長を追求してまいります。

当社はこれまで、タイヤ業界で世界的な品質・信頼性・販売力を備えたトップブランドを目指し努力を重ねてきました。今後、「アクティブトレッド」に代表される技術力とDUNLOPブランドを掛け合わせることによる価値向上を通じ、将来、Tier1(最上位ブランド)としての確固した地位を築いていきたいと考えます。
欧州にて複数の投資家の方々と対話した際に、「日本でアクティブトレッドという魔法のような技術搭載の新商品を出したそうだが、欧州ではいつ発売するのか」と質問され、現地における関心の高さを実感しました。2027年にはさらに性能を向上させたアクティブトレッド技術を搭載したオールシーズンタイヤを欧米向けに上市する計画です。
今後も、当社独自のアクティブトレッド技術は、さらに進化を遂げます。2028年以降も、さらなる機能の実用化に向けて開発ロードマップを定めています。お客様に新たな体験価値を提供し、タイヤ業界にゲームチェンジを起こし続けていきます。これから先、自動車の世界が劇的に変わっていく中で、タイヤのプレミアム化を推進することにより、事業を飛躍的に伸ばすことができると考えています。

スポーツ事業においてはDUNLOPブランドの取得を機に、事業の可能性が大きく広がると考えています。今後、全社におけるブランド価値向上のフロントランナーとして事業を展開し、ゴルフ、テニスの領域で「グローバルトップ3」のブランドを目指します。
また近年のゴルファーのライフスタイルの変化に合わせて事業領域を拡大し、新たな価値提供により顧客との接点を広げていく考えです。

産業品事業は、トップシェアの商品を軸に事業拡大を図るとともに、制振ダンパーなどの商品を通じて社会課題の解決に取り組み、より強固な事業基盤の確立を目指していきます。また医療用ゴムも事業拡大の中心となります。現在医療用ゴムの新工場稼働に向けて着実に準備工事を進めています。

長期経営戦略は投資家の皆様から概ね高い評価をいただいており、「構造改革と成長戦略の両輪を掲げている点が良い」とのご意見に、戦略を確実に実現していく決意を強くしています。
一方、「目標値が保守的」とのご指摘もあり、業績向上を通じて期待に応えたいと考えています。長期経営戦略では、2027年に向けた財務指標を見直し、さらに2030年~2035年に向けた財務指標の目指すべきレベルを設定しました。事業利益率の目標は、2027年の従来目標7%を10%に引き上げ、2030年~2035年には15%を、またROEは12%、ROICは10%を目指します。

イノベーションの加速
あらゆる部署でイノベーションに向けた取り組みを促進

持続的成長に向けて、当社が重視してきたイノベーションをさらに加速させます。まず、技術面におけるイノベーションを促進し、タイヤのプレミアム化、スマート化、環境対応などに取り組みます。そのために社内での研究開発力の強化に加え、外部の知見を取り込むオープンイノベーションも進めていきます。さらに、2028年には高性能ゴムの開発を目的とした「イノベーションセンター」を設立する計画です。
あわせて、私が追求したいのが、マーケティングにおけるイノベーションです。当社は、培ってきた革新的な技術を活かしたビジネスの構想力に課題があると認識しています。そのため、マーケティングの中心地である米国に「イノベーションラボ」を設立し、新技術の商品化やビジネス化に向けたマーケティング機能を強化し、マーケティング人材の育成にもつなげていきます。
さらに、製造現場でのイノベーションにも積極的に取り組みます。長期経営戦略で打ち出しているのが、「In-House NewFactory」という新たなコンセプトです。これは既存の生産拠点の一部を最新鋭の生産設備にリニューアルすることで、プレミアムタイヤの開発と生産を推進する取り組みです。当社はこれによって、工場の操業を止めることなく、従来のラインをプレミアム商品ラインに順次切り替えていきます。
また、ゴムで培った技術をベースにした新規事業の構想もあります。候補として、タイヤ材料の硫黄の研究に基づくリチウム硫黄電池の正極材活物質をはじめ、ポリマーの研究に基づくがん細胞吸着キット、3Dプリンタ造形用ゴム材料などが挙げられます。今後、事業化に向けた取り組みを加速していく考えです。

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サステナビリティ経営の推進
マテリアリティをもとに社会価値と顧客価値の最大化

私は、サステナビリティへの取り組みは、持続的な事業運営において不可欠と認識しており、長期経営戦略の策定過程でも重視し、その施策と推進を織り込みました。2024年10月に見直したマテリアリティ(重要課題)をもとに、サステナビリティの各課題について施策と目標を掲げており、財務目標と同様に着実に達成していく考えです。

7つのマテリアリティの中から、4つの取り組みについて紹介いたします。
1点目は、気候変動への対応です。当社グループは事業活動において多くの温室効果ガスを排出していることを認識した上で、脱炭素化社会の実現に向けてサプライチェーン全体の排出量削減を進めます。
最近のトピックスでは、福島県の白河工場において水素を活用したカーボンニュートラルの取り組みを進めています。2025年4月、水素製造装置のお披露目会を開催し、報道関係者はじめ多くの参加をいただきました。これからも水素を「つくる」・「つかう」の二刀流で、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

2点目は、人権尊重についてです。当社グループは、事業活動を通じて関わるすべての人々に対して、人権を尊重する責任があると考えています。この責任を果たすため、人権尊重に関する方針を明確にし、体制を整備しました。今後も、事業を通じて人権尊重の責任を果たしてまいります。

3点目は、多様性の尊重です。多様な人材が「輝ける、働きたいと思える」会社を目指し取り組んでいます。特に、製造現場におけるエンゲージメント向上のため、働きやすい環境整備を優先的に進めます。
また、国内外で多様な人材が活躍できる環境を整え、誰もが自由闊達に議論しチャレンジできる組織風土づくりを推進します。今般の女性執行役員選任など、ジェンダーギャップ是正にも組織を挙げて取り組んでいます。

4点目は、コーポレート・ガバナンスについてです。取締役会の多様性の確保に努めるとともに、ボードメンバーが意見を率直に交わせる雰囲気づくりを心がけています。長期経営戦略で掲げるあるべき姿の実現のため、コーポレート・ガバナンスの在り方を引き続き模索、追求してまいります。

ステークホルダーの皆様へ
「挑戦に伴う失敗を恐れる必要はない」魅力ある価値創出へのチャレンジ

創業以来、当社はものづくりで日本初や世界初といったイノベーションを追求し、数々の成果を上げてきました。100%石油外天然資源タイヤを商品化するなど、サステナビリティの先駆けといえる商品を生み出したほか、タイヤ内部に吸音スポンジを装着したタイヤ内部吸音技術など、数々の革新的な商品、技術を生み出しています。
背景にあるのは、挑戦する心を大切にした企業風土です。この土台の上に「アクティブトレッド」や「センシングコア」といった時代をリードする技術が登場しています。こうした特長、強みに磨きをかけていくことで、魅力ある価値を創出していきます。
「挑戦に伴う失敗を恐れる必要はない」。これは私が全社に向けて発信しているメッセージです。仲間を信じて助け合い、各自の挑戦を後押ししていく。これを実践していくことで住友ゴムのわくわくする未来が到来します。その中で企業価値を向上させステークホルダーの皆様のご期待に応えていく考えです。引き続き、当社に対するご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

写真:代表取締役社長 山本悟