財務担当役員メッセージ

選択と集中により
事業ポートフォリオを最適化し、
成長路線への復帰を目指す

写真:取締役 常務執行役員 大川直記

取締役常務執行役員大川 直記

これまでの中期計画への強烈な反省が出発点

今回の中期計画は、前回、前々回に発表した中期計画(以下、中計)が未達成の結果に終わったことに対する強烈な反省からスタートしました。この2回とも、右肩上がりの利益計画を打ち出したものの、実績はコロナ禍もあり、逆に3割・4割落ちていく結果でした。
その真因を探っていくと、主力のタイヤ事業で2015年10月のGoodyear Tire & Rubber Company(以下、グッドイヤー社)とのアライアンス契約および合弁事業を解消し、当社が全世界に打って出られる環境になったことにさかのぼります。1999年のグッドイヤー社とのアライアンス締結以降、主に中国や新興国を中心に世界進出を推し進め、儲ける仕組みを構築してきました。2013年には南アフリカ工場の買収、ブラジル工場の稼働、2015年にはトルコ工場の稼働と、海外の生産拠点設立を進めました。
このようななか、提携解消によって北米の日系メーカー向け、日本、ロシアや中近東、アフリカなど33カ国におけるダンロップブランドの使用権が得られたことから、生産能力の拡張をさらに進めていきました。生産設備の稼働率を上げてコストを下げ、売上を伸ばして利益を出すという経営の基軸を継続・拡大していきました。当社にとっての得意分野にフォーカスするよりも、工場の操業度を重視して受注し、利益率が下がっていたところにコロナ禍に見舞われたのです。
結果、重要な利益の源泉地域である中国がゼロコロナ政策で振るわず、さらに日本やタイ、インドネシアから出荷する北米向け海上運賃が一時期、コロナ前の7~8倍に高騰し、送れば送るほど損失が広がる状況に陥りました。明らかに生産能力に頼った経営に問題があったと認識しています。
新中計では、売上重視の方針を改め、利益率にフォーカスしてヒト・モノ・カネを適時適切に投入して利益体質を高め、もう一度「イノベーションと収益力の住友ゴム」と言われるような企業に変革します。例えば商品ミックスの改善では、タイヤの生産品種を約3割減らすことを目標に掲げており、現在は約17%削減にまで漕ぎつけました。このような取り組みなどから生まれたキャッシュを成長事業に投じていきます。

北米タイヤ事業重視は貫くが、米国工場はゼロベースで検討

北米と一言で言っても、当社には「北米事業」と「北米の工場」という2つの側面があります。
まず、北米タイヤ事業については、当社は当然これを重要視しており、この方針に変更はありません。一方、北米への製品供給には、①日本・タイやインドネシアからの輸出、②北米の工場で生産、の2パターンがあります。
北米タイヤ事業の事業利益が下がっている理由の1つ目が、先ほど述べた海上運賃の高騰です。コロナ禍以前は、日本やタイ、インドネシアから米国に輸出しても十分採算が取れていた状況が急変しました。足元では海上運賃が落ち着きつつあり、輸出品については利益が出るようになりましたが、このような事態に陥るリスクを低減するには、北米の生産量を増強する以外にありません。
2つ目が、コロナ禍により人流が制限され、日本からの支援者が米国工場に行けなかったことで、生産性改善が計画通り進まなかった点です。
北米への輸出分からの利益と米国工場の赤字を相殺して北米事業を黒字化している間に米国工場を一気に改善するという戦略が思うように進みませんでした。この状況を打開するため、コロナ禍がひと段落した昨今では海外事業と製造部門のスペシャリストを現地に派遣し、改めて課題を洗い出して米国工場の赤字を極小化する取り組みを推進中です。
一方で北米での増産という意味では工場の新設も視野に入っていますが、2025年までは収益改善に注力します。その状況に応じて、既存の米国工場に関してはあらゆる選択肢を排除せずゼロベースで検討し、決断します。

ROIC経営を促進し、成長事業・収益事業にリソースをシフト

今後、選択と集中により事業ポートフォリオを最適化し、構造改革事業からもキャッシュを捻出し、成長事業・収益事業へ投資と人材をシフトしていくにあたっては、ROIC(投下資本利益率)を指標としていきます。
ROIC算式の分母となる投下資本は、設備投資と運転資本の増減が大きく関わります。経営基盤強化活動「Be the Change」プロジェクトで立ち上げた運転資本タスクフォースでは、2022年末までに運転資本を圧縮して300億円のキャッシュ・フローを創出するという目標を達成しました。この活動は今年1月、新たに設立した財務部で引き続き推進していきます。
また、これは社内の制度面ですが、現在構築中のERP(統合基幹業務システム)にROICデータを組み込む準備を進めており、今後個人の目標管理にまで紐づけた管理体系を策定する予定です。社内でも運転資本がROICの改善に利いてくることを従業員にしっかり伝え、成果を共有することでROIC経営の浸透を図ります。

ROICツリー

図:ROICツリー

設備投資、減価償却

グラフ:設備投資、減価償却

2019年よりIFRS16号(リース)適用の影響を含みません

キャッシュフロー

グラフ:キャッシュフロー

株主還元方針について

当社は、事業そのものを改善し、営業収益が生み出すキャッシュ・フローを最大化することで株価の向上を図ることが、最も重要な株主還元であると考えています。
そのため、得られたキャッシュ・フローは、設備投資や研究開発費に投じるほか、内部留保などを総合的に俯瞰しつつ、長期安定的にしっかりと配当していきたいと考えており、当面は株主還元を目的とした自己株式の取得は考えておりません。
必ずしもコミットメントではありませんが、決算発表において口頭でお伝えしている通り、配当性向40%以上を一つの目安に、その基準に沿ってしっかり配当を長期継続的に、安定的に実施する考えはこれまでもこれからも変わりません。

1株当たり配当金額(2022年時点)

グラフ:1株当たり配当金額

2023年7月10日時点

※12019年度の配当性向は、減損損失を除くベースで48%

結びに代えて

今回の中計では、財務担当として当社の財務基盤が最終的に、しっかりと健全に成長できるように全従業員と共に汗をかいてまいります。全社最適と考える道筋については、肚を決めて最後までやり切ります。中計の進捗状況についても、半年ごとに社長の山本自らが社内外にご報告する機会を設けてまいります。